【関連】“国際貢献”揺れる評価 空自イラク派遣『違憲』 歓声、涙ぐむ原告 東京新聞
2008年4月18日 朝刊
「航空自衛隊の空輸活動は武力行使と一体」-。名古屋高裁が十七日、自衛隊のイラク派遣に初の違憲判断を下した。「画期的判決」と抱き合って喜び、涙ぐむ原告たち。一方で「世界の常識に外れている」との批判も聞かれる。派遣から四年。政府は活動継続を言明したが、実態が国民に明かされないまま進められた“国際貢献”の評価は、いまだに揺れている。
「憲法九条は生きている、力があるんだということを明確に示した画期的判決です」。判決言い渡し後、名古屋高裁近くで開かれた原告らの報告集会。判決内容を説明していた弁護団の川口創事務局長がこう口にすると、会場からは大きな拍手がわき起こった。
内河恵一弁護団長は、弁護士になったばかりのころに携わったという四日市公害訴訟を引き合いに出し、「それ以来初めて法廷で涙を出した。よくぞここまで判断したというのが率直な気持ち。司法はまだ生きている」などと話して言葉を詰まらせ、涙ぐんだ。
原告でつくる「自衛隊イラク派兵差止訴訟の会」の池住義憲代表(63)は「私の人生の中で、今日は誇りを持って語れる日。四年二カ月訴え続けてきた意味が示された」と述べ、これまでの苦労を振り返った。会場の壁には「画期的判決」「平和的生存権を認める」などと書かれた紙が張られ、全国から集まった百人を超す原告や支援者らの歓声に包まれた。
派遣隊員戸惑い『やっぱり…』
「日本のため、国際貢献のためにやってきた僕らの空輸は憲法違反なのか」。名古屋高裁が示した判断を受け、空自のイラク派遣の中核を担う小牧基地(愛知県小牧市)には衝撃が走った。
複数回の派遣経験がある隊員はニュースを基地のテレビで見た。同僚と目を合わせ、のど元まで出かかった「やっぱり、やばいことをしていたんだ」をのみ込んだ。バグダッドへの飛行が始まってから、C130輸送機上で身の危険を感じるようになった。武装した米兵にも接し「実戦にかかわっている」ことへの緊張感や高揚感も体験してきた。
とはいえ、自らを否定されるような違憲判断にはやりきれなさも。子供たちには「パパは日本のためにイラクに行ってくる」と言い続けてきたから。
派遣を控えた別の隊員は「政治のことはあまり考えないようにしている。今回の司法判断も同じだよ」と作り笑いをした。司法判断でイラクへの派遣が終わるはずはない。「米軍と一緒に多国籍軍という枠組みで行動している以上、米軍が撤退すると言わない限り空自は居残りだし…」
空自幹部は「司法判断の論拠には首をひねらざるをえないが、危険な場所での任務だけに隊員の士気が落ちることが怖い」と話した。
世界の常識外れる
軍事評論家の江畑謙介さんの話 イラクに輸送目的で自衛隊を派遣した以上、何を運んでいるか他の国は関心がない。水や食料、燃料はいいが兵員や弾薬はだめなんて(今回の判断は)世界の常識と懸け離れている。兵員を運ばないことで自分の手が汚れないというのは自己満足だ。船外発動機や車など日本の輸出品は海外で武器として使われており現実を見ていない。世界貢献はこのような考え方では行き詰まるだろう。日本は食料自給率が低い。海外貢献せずに飢えてしまっていいのか。現実を踏まえないと事は進まない。
今後に重大な影響
水島朝穂・早稲田大法学学術院教授(憲法)の話 長沼ナイキ基地訴訟一審以来三十五年ぶりに自衛隊の憲法適合性について裁判所が正面から判断を加えたことは極めて画期的だ。特にイラクでの空自の活動を詳細に認定し、政府の自衛隊海外派遣に関する解釈を踏まえた上で「武力行使に当たる」と明言したことは非常に重要だ。また、平和的生存権について、裁判所に保護と救済を求めることのできる具体的な権利と判断したことも注目される。国から戦争遂行への加担や協力を強制された場合、差し止めや損害賠償の請求ができることを示唆している。今後の自衛隊の活動への司法判断の在り方に重大な影響を与えるだろう。
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